ブラックサバスとの出会い
メタリカやメガデス、ザックワイルドなど海外のヘヴィメタルアーティストの多くは、「幼少時に聴いたブラックサバスが精神的な支え、この音楽が無ければだめになっていた」というほどの大きな存在がブラックサバスです。
高校受験で親族からの妨害とプレッシャーにすっかり参っていた私は、高校入学時に聴いたマリリンマンソンと言う強烈なアーティストにすっかりほれ込んでいました。ブックレットを隅から隅まで読む中で、「ブラックサバス」というバンドの存在を知りますが、当時はインターネットがやっと普及し、ホームページを作れる人はまだまだ一部と言う時代でしたから、思うように情報も手に入りません。
「日本のブラックサバス」とほめそやされる「人間椅子」などにも行き着きましたが、大学受験終了後の私はどうしても「ブラックサバスのCDがほしい」と強く心に決めていました。大学の合格発表を見に行った帰りに都内のCD屋に立ち寄り、そこで幸運にも「ブラックサバス」のCDを買えたのです。
人間椅子の記事をアップしました![blogcard url=https://peridotsugawara.com/review/reading-impressions/way-to-blacksabbath-ningen-isu//"]
重苦しい悪魔崇拝の曲かと思いきや
ブラックサバス。直訳すれば「黒い安息日」。安息日とは休日の事ですから、ものすごく暗くてネガティブなバンドなんだと思っていました。しかし、手に取ったアルバムも、黒いドレスの女性がぼんやり写るものから、ヘルメットをかぶったスーパーマンみたいなぴったりスーツの男が写ったもの、紫のロゴが入っただけのもの、はたまたスーツをきた男2人と革ジャンに赤タイツの男、派手な刺繍の黒いワンピースが似合う男性と言う、非常に個性的なジャケット写真ばかり。ホラー音楽だと思い込んで買ったものの、ジャケットが妙に面白いものばかりなので、不思議な気持ちでプレーヤーにセットしました。
1作目「黒い安息日」は1曲目こそ不吉に打ち鳴らされる鐘の音、激しい雷音を引き裂いて聞こえてくる、激しく震えるようなギターなど、とにかくイントロが重苦しい。疲れ切っていた私の耳に、その重苦しい曲調は心地よく、どこまでも底に沈んでいけるような気持ちよさがありました。でもこの曲の良さは、曲後半になって一転、駆け上がるように書き鳴らされるギターリフと変わる曲調にあります。ホラー映画でいえば、いきなりモンスターに追いかけられる、危険が迫ってくるようなインパクトを持って我々に迫ってきます。
詩のアイディアは「人々がホラー映画を怖がりながら見に行くのはなぜか」考えていたベースのギーザーバトラー(ギーザーとは、変人くらいの意味です)によるものですが、「ホラー映画において、恐怖が最高潮となり、人々が逃げ惑う様子」をうまく曲作りに落とし込んでいます。ギャグとホラーは紙一重と言うようですが、歌詞の後半は完全に「比較的最後まで生き残る主人公が、反対方向に逃げる人々に降りかかる悲劇を見て恐怖の叫び声をあげる」といった内容で締めくくっており、ドラマ性を持った名曲に仕上げられています。
重苦しさを担う弦楽器、明るさ軽さを担うドラムス
このバンドの面白さは、曲を構成する楽器パートに役割を持たせていること、つまり全員で重苦しい音を奏でているわけではない点です。ギターのトニーアイオミが奏でる、がりがり引っかかるような、震えるような重苦しいリフに、暗闇に潜む黒い霧のようなギーザーバトラーの重厚なベース音。それに対してジャズに見られるような明るいハイハットやシンバルの音、軽めのスネアドラムを担当するのがビルワード。そして、レッドツェッペリンやディープパープルのボーカルのようなすさまじいハイトーンではなく、「地声は低いんだけど結構頑張って高音を出そうと努力している」感じのするボーカル、オジーオズボーン。最初はこの明暗、軽重のコントラストになかなか慣れることができませんでした。
当時の私はマリリンマンソンの音楽に相当引きずられていましたから、「ギターが重苦しければ、ボーカルもドラムもベースもすべて曲調を合わせなければならない」という変な思い込みがあったのです。そのため、「ギターとベースが重いのに、どうしてドラムのハイハットがあんなにとんがって聞こえ、目立つのか」「絞り出すような声で歌ってよさそうなのに、なぜ明るく歌うのか」納得がいかない時期もありました。
しばらく聴き続けるうちに、「声が明るいから内容が明るいわけではない」ということに気づきます。「AM I GOING INSANE」と言う曲は、直球どストレートな「精神的に参っている」というタイトルながら、オジーの声は明るく弾んでいます。この曲に切り替わったときは、「曲のタイトルと歌い方がぜんぜん合わない、ミスマッチ」なように感じていました。
曲の後半になるにつれ、メンバーの笑い声が入るのですが、明らかに様子のおかしいげらげら笑い、笑いをとめようとしても止められないという笑い声が幾重にも重なっていくのを聴いて、だんだん曲のタイトルを思い出します。そして最後に聞こえる、慟哭にも聞こえる野太い叫び声とすすりなき。最初明るい調子で始まったからこそ、後半の変わりようにゾーッとしたものです。
暗くホラーを装うよりも、明るく振舞っている中でだんだん進んでいく狂気のほうがはるかに怖い。ロックスターらしくオジーの奇行やメンバーのはちゃめちゃぶりが話題にはなっていましたが、明暗、軽重、緩急つけたリズムなど計算しつくされた曲構成、ドラマ性に気づかされます。奥行きのあるバンドだからこそ、多くのアーティストの心を揺さぶったのだと実感しました。
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まとめ高い演奏技術と、曲に込められたドラマ性が心に突き刺さる
ここまでごらんいただきありがとうございます。有名なヘヴィメタルアーティストが口をそろえて、「ブラックサバス最高」というので、ずっと探し求めてたどり着いたバンドが今回紹介したブラックサバスです。
最初は拍子抜けしてしまった、明るいドラムス、ボーカルにミスマッチさを感じていましたが、「ギャップがあるほど怖くなる」というホラー映画の手法が生かされた、ドラマ性のある高度な曲であることに気づかされました。明るく歌っているから能天気な曲と思わせておいて、だんだん雲行きが怪しくなり、調子がおかしくなっていく様子を表した曲など、そんじょそこらのホラー映画よりも恐ろしく感じたくらいです。
そしてホラーを基軸にしながらも歌詞に織り込まれた「平和と愛」のフレーズは、70年代に流行したヒッピー文化よりもはるかにリアリティを持って迫ってきます。現実に疲れ、楽な道へと逃げていく大人とは違い、真正面からティーンたちの心の鬱屈、不満を代弁しぶつけてきたのがブラックサバスというバンドなのです。あなたが今、うつうつとして日常にうんざりしている、頭を打つようなショッキングな音を求めているなら、ブラックサバスにお任せです。