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薬屋のひとりごと1~欠点短所と共存する猫猫の一族

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薬屋のひとりごとの面白さ【猫猫の一族特有の欠点との付き合い方、活かし方】

私がこれまで読んできた作品だから偏りがありますが、たいていの作品の主人公は欠点となるところを何が何でも見られないようにし、取り繕い、気にすることが多いようです。

この作品でも、猫猫は「やせ細っていて美人の基準に当てはまらない、そばかすを顔の中心に施している、左手首から肘にかけて傷がある」というかなり強烈なキャラクターです。しかし、体格を良くして注目されようといった欲はなく、「知識を追求したい」という信念にのっとって行動します。人と違った点や奇異な点があれば、からかわれたりするので、たいていの人は一生懸命取り繕うのですが、猫猫は突き抜けています。

また、彼女の養父である羅門も、医学の知識に長けた人格者でありながら持ち前の運は悪く宦官にされてしまいますし、ある失敗のせいで刑罰を受けます。そして猫猫の実母は囲碁において右に出るものがいないほどの強者でありながら、不運にも病気にかかり、実父は軍部のトップに君臨するものの相貌失認という「顔がわからない」ハンデを抱えています。

ここにあげた人物以外にも当てはまりますが、彼らはおかれた状況や抱えたハンデに打ちのめされるのでなく、なにかしらの対処法を試したりして乗り越えている人々の方が多いようです。羅門は花街に出て薬師として生活をしていますし、猫猫の実父羅漢は人の顔やポテンシャルを将棋の駒に見立てて覚えるようにし、そのデータベースを基に戦術の組み立てや指揮を行っており、もともとのハンデを完全に克服しています。

この作品は「ミステリ」と世間で言われていますが、これほどまでに「ハンデを背負い、克服し強みをのばしていく」タイプの人物描写はなかなかなかったように考えます。

悲観するくらいなら、そのハンデを何とかする、尖った能力を見つけ出す、一点に特化するといった切り替え方、たくましさに喝采を送りたくなるのです。

見た目以外は凡人の壬氏と能力のずば抜けた猫猫

さて、本作に登場する壬氏は美貌の宦官として通っていますが、「自身が能力面では凡人である」ことを気にしています。そして見た目にさほど特徴のない猫猫に、恋愛感情以上の執着ものを見せているので複雑におもえます、今回は上の段落でお伝えした猫猫の一族の特徴と合わせ、壬氏の心理を考察してみましょう。

読者である私たちからすると、後宮や宮廷を自由に出入りできる壬氏は当然頭もキレるでしょうし、剣術の腕も相当なものと考えられるので凡人とはちょっと考えられません。しかし、見方を変えれば「見た目と身分はよいが、能力は平凡だから人並み以上に努力せざるを得なかった」という意味での、「凡人」とも言えます。漫画や小説では涼しい顔をして振舞っていますが、他の人がスラスラ覚えられることに時間がかかってしまったり、陰でこっそり勉強したりと言うことがあったのかもしれませんね。

猫猫は薬や植物のことであれば苦労せずにいくらでも覚えられ、遠目にも薬草を見分けられるという能力、持ち前の強みがありますが、壬氏にはそうした一点に特化するような能力がないため彼女にあれだけ執着するとも考えられます。

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先にも取り上げましたが猫猫の実の父、漢羅漢も「ひとの顔を覚えられない、認識できない」という特性があります。その代わり、何か陰謀があれば表に出てこないことでも怪しいと踏んで行動を起こす頭脳明晰タイプです。しかし、羅漢に外交官や礼楽など行事の進行などを任せたら間違いなく不適任です。猫猫の一族は「一点特化型の能力を持ち、適所に配置されればすさまじい才能を発揮する一方、配置が悪ければまともに戦えない」という面白い特徴を持っています。

壬氏は見た目良し、武術もこなし、行政を補佐する立場にあるという替えの効かない立場のはずですが、「自分は凡人だからとてつもない努力をしてきた」という自負があるのでしょう。そして「適性のある人間がそれなりに努力すれば、自分と同じくらいの立場にはなれる」という恐れもあるのかもしれません。自室で演武をするなど研鑽を辞めないのは、「凡人だからこそ誰かに追い抜かれてしまう、努力し続けなくてはいけない」という思いが現れているしるしでしょう。

まとめ【壬氏は努力家だからこそ、猫猫のような一点特化能力にあこがれている?】

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。普通の作品であれば、男女が相思相愛でめでたしめでたしで終わりそうですが、本作品は恋愛感情以上のものが見え隠れしているようです。

平凡な能力だからこそ大変な努力をし、優れた容姿を武器に後宮に君臨する壬氏にとって、猫猫から向けられる醒めた視線や「うげっ」という表情は意外な驚きでもあり、「気をひいてみせよう」という闘志に火をつけたかもしれません。しかし、彼女の優れた知識や見識、二重人格ではと疑いたくなるような度胸の良さなど自身には持ちえない能力、特性に気づいてひかれていったのでしょう。

 

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スガワラ

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