感想・レビュー

深紫伝説~直訳ロックがぶっ壊した洋楽コンプレックス

こんにちは、スガワラユウです。今回は私が小学五年のときにであった、聞いたら耳に残ってしばらく思い出し笑いしてしまう「直訳ロック」についてお話しします。

「洋楽=カッコいい」の常識をぶっ壊したインテリ

私が保育園児のときより、親から70年代のロックを聞かされて育ちましたが、あるとき珍しく父が邦楽のアルバムを持ってきました。ジャケットはアメリカラシュモア山に刻まれた、アメリカ大統領たちの顔をパロディにしたとわかるもので、アルバム制作者である「王様」の顔が5パターン描かれたもの。そのどれもが、ことごとく変顔であり、子供ながら「なんかふつうのバンドじゃないな」とは思っていました。

面白いから聞けと言って聞かせてくれたのですが、その歌い方は当時の私にとってはぶったまげるようなものでした。部屋中に響き渡る、おじさんの黄色い声×3。「オレのクルマ」とか、「おいでー!」というそのぶっ飛んだノリノリの歌い方に、父、私、弟全員で腹がよじれるほど笑っていた記憶があります。(母は「わけがわからん」といった様子で冷ややかに私たちを見ており、祖母はハトが豆鉄砲くらわされたような顔をしているだけでしたが)

それ以降は「深紫伝説」っていう、ぶっとんだバンドがいたなあ、という記憶だけはあったのですが、大学入学時に曲の元になった「ディープパープル」のベスト盤を手に入れます。「ハイウェイスター」「ブラックナイト」など有名な曲を聴いていたのですが、そのとき「深紫伝説」の歌詞を思い出したのです。

「かっこよさそうに聞かせているけど、実際の歌詞は『オレのクルマにゃ勝てないズェ~』っていうノリじゃん……」と。洋楽=カッコいい見た目の人たちが歌っている曲だから、中身もずば抜けてカッコいいに違いない!という思い込みをのっけからぶっ壊してくれ、しかも10年後思い出せるようなすさまじいインパクトを残していったバンド。それが「王様」です。

CDで聴いているだけなのに、「王様」の変顔が頭の中に再生されるような面白さ

普通のロックバンドなら、多かれ少なかれ「かっこよく見せよう」とするはずです。日本のビジュアル系バンドであれ、デュオであれ、転げるような笑いは取りに来ないのです。見た目もスタイリッシュにしていますよね。

でも王様のいでたちは本当にすごかった。フランスの王様がかぶってそうな、デカイ王冠。赤いマント、白シャツ、赤いカボチャパンツ、そして白タイツ。ファッションも紅白で強烈だが、音楽は本家本元※1とまったく変わらず、すさまじい演奏力を誇りながら急にぶっこんで来る巻き舌、ウフンバカン♥という感じのお色気ボイス(注:おじさんの声である)。

ジャケットで見た変顔と相まって、表情百面相のごとくへんてこりんな顔で歌っている王様しかもう想像できなくなるほどのぶっ飛びぶりだったのです。もう、その当時はロック界の漫才師ではなかろうかと思うくらい、聞き手を笑わせるようなアーティストだったのです。

※1小学校低学年のときに流れていたコーヒーのCMに、ディープパープルの「ブラックナイト」が使われていたので、どんな曲かは知っていた。

直訳を聴いて思う、シンプルな歌詞をドラマチックに仕立てるすごさ

さて、その後勉強しているとだんだん発音も聞き取れるようになってきます。一時期はロックカラオケのミクシィコミュニティにもいたのですが、シンプルな歌詞ほどものすごく難しいのです。

ロニージェイムズディオ(『ジョジョ』に出てくるDIOの元ネタ)がいたときのレインボウの名曲 Stargazerも、ロニーだからこそ迫力満点の歌になるのであって、素人が歌うとこぶしもきかせられず、声に厚みも迫力もないものですからスカスカの音にしかきこえないお粗末なものでした。歌詞のとおりに追って歌うことはできるかもしれませんが、シンプルな歌詞ほど、直球どストレートな歌詞ほど、ボーカルの技量ステージの構成力、世界観の演出の力が必要とされるんだな、としみじみ実感しました。

王様のCDのおかげで、海外アーティストの歌う曲が思いのほか、直球どストレートなシンプルな歌詞だとわかりましたし、そういうシンプルな歌詞がボーカルによって無限に広がる世界観を作り出すものなんです。

私たちを大笑いさせながら、メタルの奥行きの深さ、ボーカルの表現力いかんによって笑わせることも涙させることもできると教えてくれた王様は、25年経った今もバリバリの現役です。

スポンサードリンク

  • この記事を書いた人

スガワラ

-感想・レビュー