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【マリリンマンソン、ブラックサバスの系譜】孤独な10代の心を救った1曲

こんにちは、スガワラユウです。
今回は私が高校生のときに心臓を打ち抜かれたアーティスト、マリリンマンソンについてお話しします。

映画「マトリックス」のエンディングでマリリンマンソンに出会う

私の家庭では1970年から80年代のブリティッシュロックやブルーズばかりかかっていて、小学校のクラスメイトが聴いているような流行りの歌などはまったく知らなかったため、「ダサい」といじめられることも多々ありました。親も「周りの人が聞いていないもの、知らないものを知っているからいいのだ」と言い張りましたので、周囲からのからかいはあまり気にしないようにして過ごしていました。

中3の夏休み、人生初の受験勉強で要領もわからなかった私は完全に行き詰っていました。日々イライラし、厳しい暑さに体力を削られて勉強もめきめきとできるようになっていたわけではないので不安だらけの毎日でした。そんな私を見て、親も心配したのでしょう。映画館に「マトリックス」を見に連れ出してくれたのです。

世界観は「機械に支配された人間たちが目覚めて、器械、システム側に反乱を起こす」と言うものでしたが、中1で『攻殻機動隊』というサイボーグ漫画にもはまっていたので同じような感じだろうと思ってみていました。

赤子から老人に至るまで発電システム内のソケットに接続され、体内で発生する微弱電流をとられながら本人は日常生活を送っているような夢を見させられている、という場面にショックを受けました。でも、私自体がいつも現実の自分と仮想の自分とに分離して現実感を強く感じられない日々を送っていたので、「確かにこの世界は、何かしらのバーチャルリアリティーなのかもな」と妙に納得もしていました。

そしてエンディングでは一度銃弾に倒れた主人公ネオが、システム内でチートのような存在として復活し、敵を倒し仲間を救った時点でエンディングとなりましたが最後に流れた曲がマリリンマンソンの「ロックイズデッド」でした。英語の発音もまったく聞き取れず「ロック」と「デッド」くらいしか聞き取れないようなありさまでしたが、暴風雨のように叩きつけてくるボーカルの声に、どうしようもない悲しさ、あきらめ、そういった繊細さやちょっとしたネガティブな要素に強く惹かれたのです。

当時私が大嫌いだった「難しいことはあきらめよっ!楽しいことだけ考えよっ!恋しちゃおうよ♪」という能天気そうな歌詞、リズムとは全く違う、よく切れるナイフのように鋭い歌詞と声、そして相当苦労して生きてきた人なのだろうと簡単に推測できたからです。映画館から帰った後、すぐさまネットで検索して、マリリンマンソンの名前を控えました。

高校受験が終了して燃え尽きていた私の心を揺さぶった

さて、高校受験の間は趣味のイラスト書きも読書も全面的に禁止され、受験当日までゴールに向かってひた走るゾンビのように過ごしていました。受験校のランクを1つ下げられたうえ、「努力しないから受験校のレベルを下げられたんだ」とか「受験先はレベルが低いから、理数系が苦手なお前にはちょうどいい」など、親からこき下ろされていたためです。

結果として最低合格点をはるかに上回る点で合格しほっとしていたものの、ちょっとした事件が起きました。近所に住んでいた才女であるE美さんに進学先のレベルを下げたことを暗にからかわれ、そこから私の心はどん底まで落ちてしまったのでです。

高校が始まってもゾンビのような顔をしていた私を、親も多少は気にかけたのでしょう。小さなCDプレーヤーとスピーカー、エンヤのCDをくれたので聞いていましたが、ふっと「テレビで話題になっている曲を聴きたい」と思い立ち、近所のCD屋へ足をはこびました。その当時は平井堅さんのアルバムが出たばかりで、買ってみようと手に取って歩き回っていると偶然目に入ったのがローリングストーンズ「フラッシュポイント」の赤いアルバム、そしてマリリンマンソン「アンチクライストスーパースター」の、ゾンビのようなビジュアルのアルバムでした。

2枚とも買ってプレーヤーにかけたとたん、マリリンマンソンの「フォゲーッー!!」という(漫画表現で表すなら太文字にしたうえ濁点を全部の文字につけても足りないくらい)のすさまじい絶叫から曲が始まり、私は度肝を抜かれた。マリリンマンソンの歌唱は、彼の心の中の鬱屈したものを、ひたすら吐き出し叩きつけているような激しい音楽で、完全にはまってしまった。そんじょそこらの「愛してるよ~」なんて言葉も、「ロックンロール♪」なんてノリもすべて粉砕するようなパワフルさと悲しみ。私にとって、これはただのミュージックアルバムではなかった。自分と同じ空虚感に悩み、クラスメイトに合わせて作り笑いすらできない根暗な自分を救うバイブル、教典だった。

マンソンと出会い、運命の電撃

英語のブックレットを広げ。このマリリンマンソンなる人物がどういう人なのか頭に入れようとした。彼の父親が抱えた精神的後遺症、異様な親戚の話など当時の私にはまったく現実離れしたものばかりで頭が真っ白になってしまった。そのうえ、キリスト教教育を受けさせられて頭がおかしくなりそうになった彼が逃げ道としたのが「ブラックサバス」などのメタルバンドであったと知った。

よくテレビで、悲惨な生活をしている人の話は聞いていたが、マリリンマンソンの経験してきたことは当時の私にはあまりにもヘヴィだった。そして、そんな生活から抜け出してこの人はどうやって生きる気力を取り戻したのかもっと知りたくなった。英語原文をよんで、もっとディスコグラフィを知りたいと思って英語の勉強にも熱が入ったし、高校生活で不安なことや嫌なことがあっても、激しい音楽を聴いているとものすごく落ち着いたのだ。

もしマリリンマンソンのアルバムを見つけられなかったら、無気力のままで抜け殻のように生活していたに違いありません。言葉が悪いので苦手な方には悪いのですが、マリリンマンソンが放つ「ふざけんな」という魂の叫びのおかげで、私は生き返ることができたのです。あのゾンビのようなメイクのマンソン、赤と黒の雷のマークのディスク。まさにつまらなかった私の人生にとって、運命の電撃となったのです。

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